略歴

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小林昭七 (1932 – 2012) の略歴

ShoshichiKobayashi

カリフォルニア大学バークレー校の数学科名誉教授小林昭七氏(80歳)は2012年8月29日睡眠中安らかに死去した。同氏はバークレーで50年間教職を務め、微分幾何学と数学の歴史に関する著作など15冊以上がある。

小林昭七氏は東京大学数学科を1953年に卒業、フランス政府招聘留学生としてパリとシュトラスブルグの大学院で一年間(1953 – 54)学び、シアトルのワシントン大学で1956年に博士号を取得する。プリンストン高等研究所の研究員(1956 – 58)、マサチューセッツ工科大学の研究員(1958 – 60)を経て、ブリテイッシュ・コロンビア大学助教授(1960 – 62)となる。1962年カリフォルニア大学バークレー校に迎えられ、1966年に正教授となる。

同氏は東京大学、マインツ大学、ボン大学、MIT, メリランド大学を初め、世界多数の大学で数学科の客員教授を務め、最後は慶応大学の客員教授であった。スローン・フェロー(1964 – 66)、グッゲンハイム・フェロー(1977 – 78)、バークレー校数学科主任(1978 – 81)。

小林昭七氏は20世紀後半に微分幾何学の分野で最も貢献を成し遂げたた数学者の一人である。

1954年に始まった彼の初期の仕事は、接続の理論に関するものであったが、これは今日、微分幾何学とその応用のあらゆる面で基礎的な概念になっている。小林教授の初期の仕事は本質的にエリー・カルタン氏の多くのアイデア―特に射影幾何や共形幾何において―を明白にし、拡張し、今日の微分幾何学を学ぶ者に役立っている。彼の2番目の大きな関心事は曲率と位相数学(トポロジー)との関係、特にケーラー多様体に関するものであった。

小林教授は、生涯を通して、ケーラー多様体とさらに一般的な複素多様体に注目し続けた。彼の仕事の中で将来永いこと影響を与えるものの一つとして、彼が1967年に導入した計量の概念―その後間もなく「小林擬距離」と呼ばれるようになったが―とそれに関連する「小林双曲性」がある。 それ以来、これらの概念は複素多様体の写像を研究する上で、欠くべからざる道具になっている。

その他に、小林氏が今世紀にかけて果たした重要な業績としては、複素ベクトル束、アフィン射影幾何における固有距離に関する仕事、そして幾何学構造の対称性を研究するにあたり、フィルター付のリー代数を用いたことである。

小林昭七氏の数冊の著作は微分幾何、複素幾何の分野で標準的な教科書になっているが、特に、野水克己氏との共著 Foundations of Differential Geometries, Vol. I & II (1963, 69)は、代々の学生や学者達が微分幾何学の真髄をこの本から学んでいる。

満渕俊樹教授(大阪大学)は、2013年2月発行の雑誌『数学セミナー』(小林昭七特集号)に寄稿した解説記事の中で、下記の6項目について小林氏の業績を論じている。

  1. 小林の擬距離
  2. 小林双曲性と測度双極性
  3. 射影不変計量
  4. Frankel 予想の研究と小林―落合の複素射影空間などの特徴付け
  5. フィルター付きリー代数と幾何構造
  6. エルミッシャン―アインシュタイン正則ベクトル束の研究と小林―ヒッチン対応