「小林昭七先生」 篠崎英理子

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ErikoShinozaki篠崎英理子
高校の数学教師、横浜市

 

私が小林先生に初めてお目にかかったのは20年前、私が大学三年の時、先生が国際基督教大学(ICU)へ客員教授で来られた年でした。 私は以前から大学で数学を勉強したいと思っていましたので、ICUでは初め数学専攻でしたが、ICUで取った数学の科目のどれにも馴染めない感じをもっていました。

小林幸子、篠崎英理子、田中真知子
小林幸子、篠崎英理子、田中真紀子

高校時代は数学の勉強にはいつも自信があり、学んでいる内容を理解していました。 当時三年生の秋学期を終え、私は幾何、代数、解析のいずれかを選ばねばなりませんでした。その時点では専攻分野として幾何学を考えてはいませんでした。私は専攻を化学に変えようかとも考えていたところでした。小林先生の講義は必須科目でしたので、受講することにしましたが、それが私の人生を丸っきり変えることになるとは想像もしてませんでした。かくして、数学専攻三年の時に小林教授にお会いする機会を与えてくれた神様に感謝することになりました。その年の第二学期(ICUは三学期制です)直後に先生はICUから去られることを私は知っておりましたので、幾何の勉強に専念し、解ける問題はすべて手がけ、先生のオフィスを毎日のように訪れました。

その学期末試験では、ICUに入学以来初めて、高校時代に経験したような成績を得ることが出来ました。小林先生が試験の答案を返される時、私に微分幾何を続ける気持があるかと訊ねられました。正直に申して、当時ICUには微分幾何を教える教授はおりませんでしたので、私が先生に伺いたかったのは一体どうやってこれから微分幾何を勉強できるかということでした。

暫くして、先生は田中真紀子先生(現在は理科大学教授)の下で微分幾何を勉強するようにとご親切に仰って下さいました。田中先生は当時、ICUの学生たちの解析演習を担当されていました。幸いなことには、当時田中先生は小林先生の(東大学生時代の)同僚であられた上智大学の長野先生のご指導の下で微分幾何専攻で勉強されておられました。更に小林先生は翌年私が提出しなければならぬ卒業論文の指導をしてくださるのみでなく、先生のご指導のもとで微分幾何の勉強を継続するように言って下さいました。

先生との勉強は殆ど、電子メールでする予定でしたが、私の4年生の年は、殆ど東京大学の評価のお仕事でおられましたので、本郷キャンパスで頻繁のお目にかかることが出来ました。バークレーに帰られる当日にもお会いしました。 私の論文に関して討議した後、上野駅までご一緒に歩き、成田行きの電車の中でも数学のデイスカッションを続け、空港で握手をしてお別れしました。

それから20年あまり、小林先生が学会、セミナー、大学評価、特別講義などで来日される度に、お会いしました。先生のお昼休みや、講義の合い間の休憩時間にお会いしました。小林先生のお陰で、東京や関西地区のにある大学や講演会場をあちこち訪問する機会に恵まれました。

先生との仕事の内容は、年が経つにつれ変わりました。4年生の時は共役接続に関するトピックを卒論のテーマとして選び、私がある定理を発見するのを手伝って下さり「共役接続と接続のモジュライ空間」と題する論文を、「東京大学数学誌」に提出して下さいました。 しかし私は大学院に進学せずに(1995年の日本では就職は大変厳しいものでした)国内の高校の数学教師として,フルタイムで働く事に決めて以来、研究を続けることは大変難しくなりました。

そしてある日、小林先生は上記のトピックを彼の大学院の学生に譲って構わないか、そして代わりに、先生のご著書「曲線と曲面の微分幾何」を英語に翻訳し、LaTexでタイプするのを手伝ってくれないだろうかと訊ねてくださいました。私が引き続き数学の分野で先生とご一緒に勉強を続ける機会を下さり、私が先生のお仕事を理解し翻訳できると信頼して下さったことに、私は大変感謝いたしました。 残念なことに先生とご一緒に翻訳を完成することが出来ませんでしたが、田中真紀子教授と一緒にこの翻訳の仕事を続けるつもりです。

最後になりますが、この偲ぶ会に参加させていただく機会を賜りました諸先生の皆様に御礼申し上げます。 何時もご親切に接してくださる田中真紀子先生、この会に私を招いてくださりこの特別の機会を下さいました慶応大学の前田先生のお二方には、格別御礼申し上げます。私は現役で活躍している数学者でもなく、小林先生のバークレーでの弟子でもありません。しかし、小林先生とのお付き合いを通し、数学を通じてお会いした皆様方からのご援助のお陰で、数学と言う学問は頭のみならず、心をも育てる素晴らしいものだと常々信じてまいりました。 これからも熱意をもって数学の分野でキャリアを続ける所存でおります。そして私の学生の中から、将来小林先生のような高名な数学者が現れる日が来ることを夢見ております。

ご静聴、真に有難うございました。

(翻訳文責小林久志)